ハロー、菊。こちらは雪だ。
いいかげんに雪なんかでうんざりしたくないが、やたら降るんだから仕方ない。
お前も知っているだろうけど、本当に今こっちは大混乱だ。フランシスも風邪を引きそうだし、国内の格差の問題でルートヴィッヒもかけまわっている。あの二人に今倒れられたら、世界経済的にもやばいから、俺も時々口は出してやってるんだが、二人ともろくに聞きゃしねえ。が、一応なんとか協力しあってるようだから、一応考えてはいるってことなんだろう。
まあ、当然、問題は雪が普段降らない地域のやつだけどな。対策に追われてるのはどこも同じだ。フェリシアーノはあいかわらず能天気で、寒いから会議を休むって電話してきたぞ。ルートヴィッヒは怒ってた。当然だ。俺もついでに居眠りをこいてたフランシスを殴って起こしてやった。泣きながら感謝してたからもう一発殴ってやった。
とにかく雪だ。庭の手入れも考えなくちゃいけない。
あまりに振りつもるもんだから、庭の隅の古い温室がとうとうつぶれてしまった。使ってなかったから良かったが、今年はある難しい品種の交配と栽培を計画していたから、こっちが気をもむことといったら! 別の温室だったら仕事を放り出していたところだった。幸い、そちらは秋にした補強が良かったのか、無事に姿を保ち続けているよ。
夏もフェーン現象で、異常な暑さを記録したろう。植物にとってもめまぐるしい一年だったな。
遅々として進まない環境関連の会議も、こうなってくると俺達ではどうしようもないんじゃないかとつい考えてしまうな。アルフレッドの馬鹿はまたむちゃくちゃな案を出すだろうけど、本当にそれくらいしなくちゃこの星はどうにかなってしまうんじゃないか、と時々この寒さの中で思う。ああ、本人には言うなよ。
春には飛行機が飛ばない、夏は暑い、秋は実りが少ない、冬はこの雪! 俺とお前の貨幣価値も迷走中で、ユーロにとっても悪夢のような去年だった。
そう、だが、いいこともある。
今度、まとまった連休がとれそうなんだ。スケジュールのあいそうな奴と一緒に何か、催し物をしたいと思ってる。菊の都合はどうだろうか? 別に無理に誘っているわけじゃないが、お前がいた方が何かと都合が良い。どうせ何をやっても上司のあり方に不平不満の出る時節、楽しんだもの勝ちだ。
無理に誘ってるわけじゃない、そこはかさねて言っておくが、良い返事が聞けることを期待している。今度この件について電話するから、その時までに考えておいてくれ。でも実は、断られることは考えていないんだ。
ああ、寒い毎日だ。けれど、英国人らしく、待つことには慣れているつもりだ。紅茶の基本は待つことだからな。お前にも以前教えただろうか? きっちり時間を計り、蒸らしてこそ、最高の時間が楽しめるんだ。
暖炉のそばで、選びに選んだアッサムティーにミルクをたっぷり入れてひとくちすすると、えもいわれぬ気分になる。冬の恩恵の一つでもあるな。いくら他国から皮肉られようとも、この習慣だけはもうやめられない。
そうして刺繍や、もう少し雪がとけたら今年は庭に何を植えるかを考えて午後をすごすのが一番なんだが、時々、たわいもない会話の為だけにお前がここにいたらいいとも思う。たとえば、今年の夏はキッチンガーデンに新しいハーブをいくつか植えようと計画しているが、お前はどんな味が好みだ?
つい質問ばかりになってしまうところは俺の悪い癖かもしれない。昔から変わらないな。とにかく、こんなことばかり考えてすごしているわけだ。夕暮れの時間になるのも早い。
春が待ち遠しい。毎朝庭にスノードロップが顔を出さないか見回っている。日本人なら桜だな。俺達の春の象徴は断然あのつつましやかな純白の花だ。
けれど同じ白ではあるが、シーツが冷たいので、お前がいればいいと思う。
ベッドから降りてベッドに戻るまで、いや、夢の中でさえ、菊のことを考えている。冬は特にそうだ。
ありえないこととわかっていても、もし──もしの話で一生叶うことはないのだろうけれど、菊がずっと隣にいるのならば、こんなふうに雪に閉じ込められる一日も悪くないはずだ。春が疎ましくなるはずだ。冬の中、お前とずっとベッドの中で眠り続けていられたら、どんなに暖かいだろうか。若草を踏み、ひばりの声を聞き、つぼみほころぶ永遠の春、それはお前の隣にある。
まったく、詩人達のいまいましさよ! かつて7つの海を支配した、大英帝国ともあろうものが、たったひとつの恋に溺れているありさま。塩辛い涙の海にはろくに瞳もあけられないときた。
などと筆にまかせて書いてみたが、お気に召しただろうか? いくら言葉を飾ろうと、お前の手元に届くまでにこの熱はインクとともに乾いてしまうだろう。どうか伝わるといい。
誕生日おめでとう。薔薇を一輪、同封する。
菊。春が、待ち遠しい。
愛をこめて
アーサー・カークランド
