狩猟者の瞳の色は紫。
ティノは現代でもよく鍛えられたその視力と反射で、上空から英国紳士が降ってきて、山間の屋敷の窓にそのまま飛び込んだのを確認した。
「無茶するなあ、相変わらず」
小さなボリュームで苦笑する。
近所迷惑な音で(実際にはまわりに家はなかったので気兼ねしなくてよいのだが)硝子窓がくだけ、月光を乱反射するその一片まで、その瞳にはよく映る。
「行きましょう、スーさん」
「ん」
振り返りもせず合図をすれば、運転席のベールヴァルドがエンジンをうならせ、アクセルを急に踏み込む。
屋敷の正面を守るボディガードが先程の喧騒を見上げる、一瞬の隙をついて車を正面にまで寄せ、
「おとなしくしてくれないと怪我しちゃいますからね!」
助手席の窓から身体の半分を乗り出した青年は、かまえた猟銃の狙いを定め、引き鉄をしぼった。
オォン、という空気の余韻を待たず、神速としか言いようがない手際で次の弾を込め、もう一発。
多少古い型でも、いくぶんか使い辛いように装飾が施されていても銃は銃、昔から呼吸をするようにそれと相性の良かったティノはまた、現役のハンターでもある。雪と湖の国にとって猟は切り離せない。
正面玄関を守っているはずだったガード達が懐に伸ばすより早く、弾丸はその手の甲と肩をかすめ、軽傷ですむように、けれど危害を加えることができないように、どこかへ跳ねていった。
「作戦第一段階終了です」
スコープもつかず精度も高くない猟銃で、不安定な車の窓から屋敷の壁と門の鉄柵を抜けて命中させる、その技はいかほどのものか。
戦慄するガードは二人、傷を抑えたまま最初の悲鳴以来、うめき声すらあげられない。
けれども門柱の鉄柵は分厚く、侵入者を簡単には入れさせない造りをしている。
「What's happened!?」
遅れはとったものの、玄関前に詰めていた仲間も一人駆けつけ、これで計三人。銃は扱えないが怪我をしていない方の腕で警棒くらいは持てる。長引かせれば裏門や内部の担当もかけつけてくるはずだった。
だった、のだが。
クレイジーな侵入者達は、もしもそのまま突っ込んできたらフロント部分が確実に大破していたであろう車を逆に銃弾から守るように門の陰に止めて、降りてきた。
後から来た男は既にコルトをかまえ、どういうつもりだと思案するが、すぐにその陰から現れたクラシカルな銃の弾丸に肘の下をえぐられ、力が入らなくなる。この時点で屋敷内の人間が、主をのぞいて全員戦闘不能に陥ってるとは思いもしない。
しかしそれよりも、今晩二度目の戦慄が彼らを襲った。
石造りの門の陰から、姿を現した長身の男の、その眼光と威圧。
テロリストにはふさわしくないポロシャツとジーンズという軽装であるのに、その威容に心臓も凍る。
「家族さ、返してもらうど」
ベールヴァルドは渾身の力で門扉を蹴りつけ、あっけなくそれは大きな音で敗北を示して地面に転がった。
次に睨みあげられた男達は、狼の王に狙いをつけられたような面持ちでくずれこみ、次々に手を上げて恭順を示した。その背後から顔を見せた、猟銃を構え続ける鷹のような眼の小柄な男にも。
勝てない。本能がそう告げていた。
「ん。怪我させちまったが、謝らねど」
「止血と消毒はきちんとしてくださいね」
それだけ言い置いて、ティノとベールヴァルドは二人、一階の端の部屋を目指して大きな庭を横切っていった。
--atgk--
戦闘シーンが上手く書けるようになりたいです本田先生。
ひとまず突入シリーズはこれで最後かと。
